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茶畑に囲まれてお茶を淹れる。日本茶インストラクターが伝える、シングルオリジンのお茶のおいしさ。

日本茶インストラクター/茶育指導士
中山 美雪さん
京都府木津川市在住。和束の好きなところは「景観、お茶、人と出会えて人生をより充実させてくれたところ」。おすすめの過ごし方は「お茶を飲みながら心穏やかなひと時を過ごしていただければ」です。
日本茶インストラクター/茶育指導士
中山 美雪さん
京都府木津川市在住。和束の好きなところは「景観、お茶、人と出会えて人生をより充実させてくれたところ」。おすすめの過ごし方は「お茶を飲みながら心穏やかなひと時を過ごしていただければ」です。

煎茶。日本で飲まれている代表的な緑茶です。急須で、ティーバッグで、ペットボトルで…慣れ親しんだ香りと味をすぐにイメージできるでしょう。けれど、和束のお茶を口に含み目を閉じると、これまでと違う体験が待っていました。森を彷彿とさせる深い香りと、満腹感を覚えるほど厚みのある旨みが広がっていきます。初めて知る本来の味わいに驚きを隠せません。

「なんや、これ」。

和束で丁寧に淹れられた煎茶をいただいた感想は、日本茶インストラクター 中山美雪さんが初めて玉露を飲んだときの衝撃と同じでした。「玉露は甘みと旨みが強いお茶なのですが、本当にびっくりして」。美雪さんは日本茶の世界に引き込まれ、2008年にオープンした和束茶カフェに勤め始めます。約10年前には日本茶インストラクターの資格も取得しました。

「煎茶は60から70度がおいしく、良い茶葉ほど低い温度が合います」。煎茶の淹れ方を丁寧にレクチャーしてもらいました。ポットの湯を急須、湯冷まし、湯呑みと順番に移し替え、温度を下げていきます。一度移すごとに5から10度下がるので、移す回数で湯温が調整できます。3グラムの茶葉に湯呑み一杯ちょうどの湯を全体にまんべんなく注ぎ、茶葉のひらき具合を見ながらおよそ半分がひらく1分弱が淹れ時です。急須を振らないように、静かに。「ポタポタ落ちる水滴に一番旨みが含まれています。最後の一滴まで大切に」。

そして一服、あぁおいしい。二煎目、三煎目と温度を上げながら味の変化を楽しみます。一煎目は甘みと旨みの成分テアニンだけが抽出され、二煎目、三煎目と温度が上がると苦味のカフェイン、渋みのカテキンも抽出されます。飲み終わった茶葉にはビタミンA、ビタミンE、食物繊維が含まれているので、食べるところまでお茶を味わってほしいと美雪さん。一番手軽なのはポン酢を合わせたおひたしです。

次はかぶせ茶を淹れてもらいました。寒冷紗で畝に直接日除けをかけ、2週間以上育てたものをかぶせ茶と呼びます。玉露も日除けをかけますが、かぶせ茶との違いはよしずと藁や寒冷紗などで覆い、20日以上日除けをして育てることです。渋みをおさえ煎茶の風味を活かすため、1週間ほど覆いをして栽培している煎茶もあります。

「かぶせ茶は煎茶より低い50から60度で淹れ、1分半待ちます」。手間暇をかけて育てられた背景を知ると、淹れ方も飲み方も丁寧になりたいと思うもの。美雪さんに4つのコツを教えてもらいました。『ティースプーン一杯約2、3グラム』『お湯の量を湯呑みではかる』『温度を種類によって調整する』『待ち時間を正確に』。基本を丁寧に、そして自分の好みを見つけて楽しむこと。

お茶の知識を深めながら、かぶせ茶をいただきます。香りを深く吸い込むと、繊細な中に青のりのような香りが立ち上ってきました。「おおい香」と呼ばれる、日除けをして育てた茶葉特有の香りです。そして一口。甘みと旨みだけを感じられて、何だか日本茶とは思えません。出汁を飲んでいると錯覚しそうな味わいです。「一煎目はいわばエスプレッソ。旨みが凝縮されているんですよ」。二煎、三煎と苦味と渋みが加わってくるのは煎茶と同じです。「二煎目あたりが飲みやすいと言われますね」。三煎目までいただくと、ほんの一口ずつでもお腹にボリュームを感じます。ごくごく喉を潤すための飲料ではなく、嗜むものとしての楽しみを知りました。

「和束は煎茶に向いた産地で、気候や土によって味に特徴が出ます。それをシングルオリジンで楽しめるのは和束ならでは。お気に入りの農家さんを見つけたり年による変化を楽しんだり、もっと多くの人に和束のお茶を体験してもらいたいですね」。和束茶カフェでは、美雪さんが茶農家ひとり一人から特徴やおすすめをインタビューする映像が流れていました。茶農家の努力やこだわりを誰よりも知っているから。美雪さんが淹れるお茶のおいしさの秘密はここにあります。

PLANNING&COORDINATION
田中昇太郎
田中美代子
西田ひろ子
PHOTOGRAPHER
奥山晴日
WRITER
原田美帆