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茶畑の町に生まれたお茶の直売所。地域コミュニティが育む、茶業を活かす観光のかたち。

和束町雇用促進協議会 事務局次長
木村 宣さん
和束町白栖地区在住。和束の好きなところは「京都府下の茶産地の中で唯一町のどこからでも茶畑が見えるのが和束」。おすすめの過ごし方は「和束茶カフェでレンタサイクルを借りて、茶畑景観の中を疾走しよう!」です。
和束町雇用促進協議会 事務局次長
木村 宣さん
和束町白栖地区在住。和束の好きなところは「京都府下の茶産地の中で唯一町のどこからでも茶畑が見えるのが和束」。おすすめの過ごし方は「和束茶カフェでレンタサイクルを借りて、茶畑景観の中を疾走しよう!」です。

棚いっぱいに並べられたお茶、お茶、お茶…!

緑茶、和紅茶、かぶせ茶と種類もたくさん、カラフルでかわいいデザインのパッケージも昔ながらの趣あるお茶もあって、どれにしようか目移りしてしまう。その数なんと300種類以上。壁に貼られたポップを読んでいると、まるで茶農家さんとお話ししている気分になってきます。ここは和束茶カフェ。2008年にオープンした、和束の茶農家が生産するこだわりのお茶の直売所です。

「いまではカフェスペースもあるし、レンタサイクルや観光案内もしていて賑やかでしょう。15年前は棚ひとつもなくて、看板だけをかけてスタートしました」。和束町雇用促進協議会 木村宣さんは和束茶カフェの立ち上げ人です。「宇治茶の生産地として京都府の茶生産量の45%を支えてきた和束町は、茶業界では名前を知られた産地。だけど、一般の人は名前を聞いたこともない。僕は和束のお茶として農家さんの屋号をつけて直接販売できる場所をつくりたかった」。

宣さんの専門分野は社会教育としての生涯学習です。どうして産業観光に携わるようになったのか教えてもらいました。銀行員として社会人をスタートした宣さんは、次に学校の先生に転職。教育現場で学級崩壊に直面し、「地域全体が子どもたちを気にかけ、叱れるような教育力を取り戻さないといけないのでは」と考えます。そして和束町教育委員会に所属し、生涯教育を担当しました。地域住民に向けた講演会や文化教室を開催し手応えも感じましたが、公共事業として学んだことを地域に還元できる場が必要と思うようになります。折しも地方創生のかけ声が出されたタイミングと重なり、「住民のやりたいことを通して町づくりに参加できる場所づくりが和束の地域コミュニティを再生する」と和束茶カフェにつながる道を見出します。

「俺の名前をつけて、好きな値段で売りたかった」。茶農家の想いは、宣さんの願いと同じでした。最初はひとりの茶農家から、何もなかった和束茶カフェの店内に棚と商品を並べました。「僕はあえて出店者を募ったり、品揃えを整えたりしませんでした。想いを共にする茶農家さんと一からチームをつくり、一緒に和束茶カフェを進化させたいと考えたのです」。和束には約300軒の茶農家がありますが、そのほとんどが宇治の茶問屋に卸売をしてきました。これからはそれだけでなく、和束のお茶を地域ブランド商品に育て、新たな物流のかたちをつくる。畑や年によって味わいが異なるのはワイナリーと同じで、それを楽しめるシングルオリジンの産地としてブランド化を進めてきました。現在は全体の1割に当たる30軒ほどの茶農家が自社ブランドの製品を展開しています。

和束茶カフェの取り組みのほか、リーガロイヤルホテル京都とコラボレーションも企画しました。コース料理に和束のお茶を取り入れた創作フレンチを期間限定で提供する「和束茶フェア」です。会場には和束の茶畑景観の写真が展示され、メニューカードには和束町長のメッセージ、テーブルクロスには和束の子どもやおじいちゃん、おばあちゃんが書いた詩や俳句を印刷。地域のみんなが町づくりに参加する、まさに生涯学習の場につくり上げます。「和束の茶畑を見に行ったよ」「今年のお茶はどう?」。和束の名前は、少しずつ知られるようになりました。この企画は現在まで17年以上も続くロングフェアになっています。

次に修学旅行や研修の誘致も手がけました。地域の人に茶産業を活かした観光の理解と経済的効果を感じてもらい、町を訪れる人と交流の機会を生むためです。宿泊施設の少ない和束町で実施したのは「農村民泊体験」。普通の農家の家に泊まり、余計なおもてなしをしない。2015年、準備も完璧ではない状態で最初のお客さんが急遽決まりました。日本語の通じないスウェーデンからの学生が約700名、一泊二日で150人ずつ農家に滞在したのです。嵐のような1週間でしたが、受け入れをした農家は誰ひとり「もうやらない」と言いませんでした。コロナ禍前には年間で2000名を超す事業に成長しています。

和束の観光産業の発展には、茶畑景観が京都府の文化的景観第1号に選ばれ、文化庁の日本遺産に認定された機運の高まりもあります。しかし宣さんのお話を伺うと、地域みんなの想いと積み重ねがここまで導いたのだと分かります。「和束の町をみんなで盛り上げて、みんなが育つ場にしたい」。観光の場で地域活性と生涯教育に伴走してきた宣さん。和束茶カフェは、その想いが詰まったみんなの場所です。

PLANNING&COORDINATION
田中昇太郎
田中美代子
西田ひろ子
PHOTOGRAPHER
奥山晴日
WRITER
原田美帆