- 2024.03.26
- |
- 和束町の景観
茶畑の町に広がる星空。望遠鏡をのぞいて、和束の宝物を探そう。
緑のグラデーションが美しい和束町の茶畑。近くで見ると茶葉が陽の光を受けてきらきら輝いています。それはまるで、夜空に瞬く星々のよう。
「和束には都市部が失ってしまった“暗さ”が残っています。何もない町ではなく、星空がある町。この価値をもっと伝えていきたいと思っています」。和束町は山に囲まれた盆地で茶畑と森林が面積のほとんどを占め、夜はとても暗い。茶業と観光産業の広報をサポートする田中昇太郎さんは和束の星空に魅せられたひとりです。昇太郎さんの案内で、私たちは和束 星を楽しむ会の湊 善実さんに会いに行きました。善実さんは生まれも育ちも和束町。茶農家を生業に和束の星空と共に生きてきました。
「小さいときから星が好きでした。二十歳のころに最初の望遠鏡を手に入れて、それからずっと飽きることがないです」。和束町は北部の山々が京都市方面の光をさえぎり、南部の山々は少しだけ低く空がひらけて天体観測に恵まれた地形をしています。「町の位置によって、どこの空の星が見えやすいか変わってくる。和束は東や南の空がおもしろい。星がよく見えたり、通り道だったりするんですよ」。隣接する南山城村、笠置町周辺と共に星がよく見えると天体観測の愛好家に知られたエリアで、都市部から観測に来る人もいます。
和束 星を楽しむ会では、2024年は毎月第2土曜日に観望会を開催し、子どもから大人まで一緒に月と星を眺める活動を続けています。和束 星を楽しむ会ができる前から、善実さんは子どもや近所の人を呼んで観望会をひらいてきました。「1993年に隣の加茂市にプラネタリウムができてよく行っていました。そこで夜の観望会に参加して、和束町でも星を楽しむ会をつくろうと立ち上げメンバーのひとりになりました」。和束 星を楽しむ会では年初に年間の観測スケジュールを決め、地域の人へ向けたお知らせを出しています。参加は子どもたちを中心に、その時期しか見られない星を肉眼や望遠鏡で眺めてきました。
「望遠鏡から見える星は白黒です。雑誌や映像では色のついた世界ですが、ああいう風には見えないんですよ」。そう言って善実さんが1枚の写真を見せてくれました。月のクレーター越しに土星が映り、雄大な白黒の世界が広がっています。カラフルなイメージであふれた現代に、肉眼でモノクロの星を見る…なんて新鮮な体験でしょうか。観望会のワクワクが1枚の写真から伝わってきます。でも、善実さんは天体写真をほとんど撮らないと言います。「写真を撮ると、みんなで見られないでしょう」。星の撮影には、望遠鏡にカメラを取り付けて一定の露出時間がかかります。その時間も子どもたちに星を見せてあげたいという善実さん。加茂プラネタリウム館は残念ながら2017年に閉館しましたが、和束 星を楽しむ会は11年間にわたり定期観望会を継続、さらに2018年からは農家民泊のお客さんや農泊修学旅行の学生さんにも観測体験を天文宇宙検定2級の知識で提供しています。その功績が認められ、2021年に「星空の街・あおぞらの街」環境大臣賞を受賞しました。
「少し望遠鏡を見てみますか」。蔵から出てきた望遠鏡はとても大きく、三脚に取り付けられたたくさんの装備にも驚きます。地球の自転に合わせて星を自動追尾する仕組みになっているそうです。「あちらの方向が南で、ほら、山が少し低くなっているでしょう。あの空にいい星が見えるんですよ」。善実さんと一緒にいると、まだ空も明るいのに星を見ているような気持ちになってきます。「いまも空に星はあります。見えていないだけですよ」。愛用の星の地図をめくると天体の世界が広がっていました。等級ごとに異なる印で星が示され、番号が振られています。「この中から見たい星を決めて、赤経と赤緯を元に探します。探していた星が見つかったときが嬉しい」。
和束町には、茶畑や森林と共に星空の景観が広がっています。まだ見たことのない天体の世界へ、和束 星を楽しむ会が導いてくれるでしょう。
- PLANNING&COORDINATION
- 田中昇太郎
- 田中美代子
- 西田ひろ子
- PHOTOGRAPHER
- 奥山晴日
- WRITER
- 原田美帆