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茶畑と緑の景観をえがく森林。木の香りと土の感触を知り、林業のいまを知る。

有限会社北午木材 代表取締役/和束の森探検隊 代表
北 和久さん
和束町中地区在住。和束の好きなところは「のんびりしたところ。個性的でおもしろい人が多いところ」。おすすめの過ごし方は「手入れされた茶畑を見て、おいしいお茶を飲んでほしい」です。
有限会社北午木材 代表取締役/和束の森探検隊 代表
北 和久さん
和束町中地区在住。和束の好きなところは「のんびりしたところ。個性的でおもしろい人が多いところ」。おすすめの過ごし方は「手入れされた茶畑を見て、おいしいお茶を飲んでほしい」です。

土と樹の香りに包まれて、思わず胸いっぱい深呼吸をする。「森は気持ちがいいでしょう?ここで食べる弁当が最高にうまいんですよ」。森を案内してくれた北 和久さんは有限会社北午木材の3代目、そして任意団体和束の森探検隊 代表を務めています。

かつて茶業と並び和束町の主要産業だった林業は、現在その規模を縮小し、生業としての事業継続は難しくなりました。「祖父の代は家づくりと言えば地元材を使った木造で、高度経済成長もあって木を切れば入札があった。あのころの風景や熱量はいまでは考えられないけれど、また見たい気持ちがあるんです」。家業に入り30年になる和久さん。祖父が地域の製材場として創業し、その後は仕入れた木材の卸売やリフォーム事業へ展開してきました。現在まで地域密着型の工務店に向けた木材屋として和束の住まいづくりを支えています。

2013年、和久さんは地域の山を手入れするため、仲間たちと共に和束の森探検隊を設立しました。「峠道を通るときに見えるうっそうとした森と細い木が悲しくて…何かできることはないかと考えました」。家業で地域産材を取り扱うことは少なくなり、さらに生まれ育った和束の森が元気をなくしていく。和束町に限らず国内各地で同様の課題が増えていた折、京都府は市民の森林整備を支援する制度を始めました。和久さんとメンバーは大阪の先行地域へ視察に行き、一般市民が山を再生している様子に衝撃を受けます。自分たちも森を手入れできると知り、和束の森探検隊を設立し認可を受けました。活動理念は「もう一度、和束町を茶業と林業の町に」。できることからをキーワードに、森林の手入れ、間伐材を利用した木工体験、間伐材を活用した商品づくりを行っています。

落葉に覆われた山肌を抜けると、竹藪をぬって新しくつくられた道がありました。「この道は、伐採した木を運ぶためのもの。奈良から専門家に指導に来てもらってつくりました」。道づくりは林業に欠かせないことのひとつだと教えてくれました。手間暇も資金もかかる森林の手入れは収益化が難しく、しかし放っておくと豪雨による山崩れの原因になります。「僕たちは、毎年の森林整備から得た報酬を道具代やガソリン代に充てています。人件費はあまり確保できずほぼボランティアですが、メンバーは山に入ると顔が変わって元気になるんですよ」。手入れをした森に空が広がり、光が差し込んだ瞬間の達成感がたまらないと言います。整備活動で切り出した木材からテーブル、カウンター、椅子等を制作し、和束町観光案内所や町内のカフェ等に設置しています。

活動を継続して3年目、2016年に和束の森探検隊は活動拠点「手作り工房 茶房 桶力」をオープンします。「桶力」は、かつて和束町にあった料理旅館の名前です。「活動拠点があれば、もっといろんな展開ができる」と場所探しから始め、地域内外の人が集える、間伐材を活用したものづくりとお茶飲みスペースをひらきました。古民家のオーナーも改修工事の施工会社も、探検隊の理念に賛同してくれました。仕上げ工事の左官や塗装は地域へ呼びかけて体験ワークショップにし、椅子やテーブルもみんなでつくり上げました。「いつの間にかいろんな人に参加してもらって、一緒に活動している」と和久さんは言います。森から始まった活動は、森と人をつなぐコミュニティをかたち作っていました。

かつて杣山(そまやま)として林業が栄えた和束町。和束の森探検隊は、森林の手入れ、間伐材を利用した木工体験と商品づくりが、やがて山の再生の一歩になると信じて活動を続けています。森に入ると人が元気になる。森とつながる活動は人を巻き込み笑顔にする魅力があると、10年にわたる活動が教えてくれました。茶畑と並び美しい景観をえがく和束の森林。景観には、いつも人々の想いが隠されています。

PLANNING&COORDINATION
田中昇太郎
田中美代子
西田ひろ子
PHOTOGRAPHER
奥山晴日
WRITER
原田美帆