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茶園から見える和束の文化。町の職員と紐解く、暮らしと景観の関係性。

和束町地域力推進課 課長補佐
草水 清美さん
和束町杣田地区在住。和束の好きなところは「自然と歴史を背景にして培われてきた生業景観が和束町の宝物」。おすすめの過ごし方は「和束のお茶はもちろんのこと、茶畑を見ながらのんびり歩くウォーキングや史跡巡りもおすすめ」です。
和束町地域力推進課 課長補佐
草水 清美さん
和束町杣田地区在住。和束の好きなところは「自然と歴史を背景にして培われてきた生業景観が和束町の宝物」。おすすめの過ごし方は「和束のお茶はもちろんのこと、茶畑を見ながらのんびり歩くウォーキングや史跡巡りもおすすめ」です。

「いま見えている景観は暮らし、文化、人々の想いが詰まったもの。私たちにとって当たり前の風景は、当たり前ではないんだよと伝えたいです」。草水清美さんの言葉から、故郷を想う気持ちが伝わってきました。和束に生まれ育った草水清美さんは、和束町地域力推進課の職員として景観を軸とした町づくりに取り組んでいます。

2008年、「和束町の宇治茶の茶畑景観」は京都府の文化的景観という文化財の第1号に選ばれます。自然そのものではなく、人の営みが自然とかけ合わさった後世に伝えていく価値のある生業の景観として、広く国内外に知られるようになりました。続いて2013年に「日本で最も美しい村」連合に加盟、2015年には文化庁が認定する「日本遺産」に「日本茶800年の歴史散歩」として加わります。

「広がりのある茶園は、複数の農家がそれぞれの茶園を管理していることが少なくありません。ただ茶園が広がっているのではなく、実はモザイクのように入り組んでいる。このかたちになった背景があるんです」。和束の茶畑景観が人を惹きつけるのは、地域の歴史、文化、暮らしが詰まっているから…清美さんは調査を通し改めて気がつきます。

2023年にまとめられた文化的景観調査報告書から、土地利用の移り変わりを教えてもらいました。大正期は相楽郡の茶の生産量が急に増えた時期ですが、それには和束町での増産が大きく貢献していました。西和束には果樹園があり、茶園は今日のようには広がっていませんでした。1975年ごろには茶園が山を覆うように広がり、集落から離れた山間部にも茶園が見られるようになります。茶園には柿の木が植えられ茶の木の霜除けになっていましたが、現在はほとんどが防霜ファンに置き代わっています。自然条件に応じた土地利用、機械導入、技術向上、茶の取引・流通システムの変化により、現在見えている「和束らしい」景観が形成されていきました。そして、地区によっても景観の成り立ちが異なるのだと教えてもらいました。

「原山」地区はなだらかな傾斜地に大茶園が広がる、茶の実が最初に植えられた場所と伝わっています。2階建ての手摘み製茶工場は、摘み子さんが寝泊まりしていた時代をいまに伝えます。「釜塚」地区は戦前と戦後にそれぞれ茶園が開拓されました。昭和の大規模な茶園の増加や機械式茶工場、被覆栽培の導入など景観が大きく変化しています。「石寺」地区は戦後の増産期に水田や果樹園を茶園に転換させました。複合的な農作物栽培を手がけていたころから、早期に茶が収穫できる立地を活かして、茶生産が生業の主体となっていきました。「白栖(しらす)」地区は谷と丘が連続し、裾は水田に、尾根は茶園として戦後に大きく変化しています。現在も碾茶(てんちゃ)栽培用の新しい工場の建設が続き、進行形の茶業の姿を見ることができます。「撰原(えりはら)」地区は山間の街道沿いに位置し、米づくりと林業を主な生業としてきた集落で、茶を取り巻く社会的な変化などを背景に茶生産へと移り変わっていきました。「湯船」地区は林業の歴史が長く、江戸時代から材木の産地として栄えました。山裾に小規模な茶園が点在し、2階建ての手揉み時代の茶工場が多く残されており、製茶機械が導入される前の姿をいまによく伝えています。

文化的景観の調査と同時に、景観を活かした観光の企画も進めてきました。和束の観光を考えるとき、おもてなしを大切にしたいと清美さんは言います。「茶畑景観は茶農家さんの生業そのもの、観光はその上に成り立っています」。だからこそ、茶業を中心にした方法を考えてきました。「この農家さんのお茶を飲みたい」と思わせるファンや関係人口になるリピーターを増やせば、お茶の消費が拡大して生産確保につながり、観光の魅力も高められます。和束町、茶農家、そして和束の魅力を伝えたいと思う人たちの取り組みは10年を超え、お茶を使った商品開発や、町内外でのイベント実施、フェアの開催、農家民泊、インバウンドなど確実な広がりを見せています。人口約3500人の町に、2018年には約17万8000人の観光客が訪れました。

子どものころには何とも思わなかった町の風景に、日々新しい魅力を見つけるという清美さん。「景観に物語があることを知って、愛おしくなったのです」。茶源郷から見える景観のその先へ、人々がつながるように。和束町の取り組みはこれからも続きます。

PLANNING&COORDINATION
田中昇太郎
田中美代子
西田ひろ子
PHOTOGRAPHER
奥山晴日
WRITER
原田美帆