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茶畑の町にやって来た若者。移住者が夢見る、あたらしい茶農家の姿。

まっさんファーム 代表
増田 耀平さん
和束町別所地区在住。和束の好きなところは「星空、鳥の鳴き声、カエルの鳴き声、虫の鳴き声、霧のかかった町の景色」。おすすめの過ごし方は「四季折々、和束町の雰囲気が変化します。それぞれの季節を味わいに来てほしい」です。
まっさんファーム 代表
増田 耀平さん
和束町別所地区在住。和束の好きなところは「星空、鳥の鳴き声、カエルの鳴き声、虫の鳴き声、霧のかかった町の景色」。おすすめの過ごし方は「四季折々、和束町の雰囲気が変化します。それぞれの季節を味わいに来てほしい」です。

茶畑の畝を歩いて、足裏に伝わるふかふかの感触に驚く。「無農薬の畑は土が柔らかいですよ」。茶畑の主 まっさんファームの増田耀平さんは2017年5月、和束町にやって来た移住者です。

「求人を見つけてアルバイトで来てみたのが最初です」。サラリーマンが性に合わず会社を退職し、いずれ起業したいと考えていた耀平さん。テレビで流れてきた地方移住の番組を見て、おもしろそうとハローワークで農業関連の仕事を探します。和束で茶畑を、下津でみかんを、みなべで梅の農作業を経験し「肥料撒きで動きまわる感じが、僕には合っていた」と、アルバイト終了後に和束町地域おこし協力隊に着任しました。担当ミッションは茶業ではありませんでしたが、業務の合間をぬって畑や製茶工場の手伝いに行きます。特にお茶のことがしたいと思っていたわけではなかったのに、いつの間にかお茶にのめり込んでいました。茶摘みをしているときは集中して邪念もなくなり、普段のストレスから解放されたように感じたそうです。「多分、地域柄も好きになっていたんだと思います。よそ者に対する壁がない。昔から農繁期に外から人を呼んでいた地域だから」。

着任2年目に空き家バンク制度ができ、耀平さんのつながりから登録する人があったり、工務店を紹介したり立ち上げに貢献してきました。人懐こい笑顔とキャラクターで、地域の人たちとネットワークをつくり上げてきたことが伝わってきます。本業の茶畑でも、コミュニケーション力が発揮されているようです。「高齢で農家をやめる人から茶畑を管理してと言われることがよくあるのですが、大体は道から遠かったり、管理が難しい畑だったりします。だけど、仲良くなったおっちゃんからはフラットで手入れしやすい畑を譲ってもらえて」。きっと、茶農家は耀平さんだからと大切にしてきた畑を託したのでしょう。

現在は地域おこし協力隊の任期を終了し、まっさんファームを起業。自社商品の生産、販売、茶摘み体験等の開催を行っています。茶業のいいところは「仕事のコントロールができること。新茶の時期は忙しいけど、ほかのシーズンは仕事の裁量があります」と言い、空いた時間に自宅兼仕事場のリノベーションも始めました。倉庫も離れも広い庭もある古民家は地域おこし時代に紹介され、住み続けてきました。結婚を機に水回りの改装も終え、現在は奥様と生後4ヶ月の赤ちゃんの3人暮らしです。「保育園の待機もないですし、町のみんなに可愛がってもらえていますよ」と心から幸せそうな耀平さん。物置はお茶飲みスペースに改装し、将来は離れで民泊施設をオープンしたいと考えています。「朝方に聞こえてくる鳥の声をみんなにも聞いてもらいたい。日中だけじゃなくてゆっくり滞在してほしい。夜は茶農家と話せて泊まれたら最高じゃないですか」。耀平さんは、人生ではじめて美味しいと思った和束町のお茶を世界中の人に知って楽しんでもらいたいと活動しています。

これからは茶摘みにとどまらない体験を提供したい、と耀平さん。「茶畑であなたの夢を叶えます」と打ち出し、写真撮影、茶畑でのご飯、キャンプなどもっといろんなことができるはずと期待たっぷりに話してくれました。美しい緑の茶畑に、世界中の人の笑顔が集まっている。近い未来にこんな光景が見られるかもしれません。

京都・和束町に広がる緑の茶畑。800年のあいだ変化を続けてたどり着いた景観に、人々は惹かれてきました。次の時代に茶畑景観はどんな姿を見せてくれるでしょうか。茶農家、研究者、歴史家、林業、観光業、自治体職員、和束に住まう人、和束を訪れる人…みんなの関わりが、これからの景観をかたち作っていきます。

PLANNING&COORDINATION
田中昇太郎
田中美代子
西田ひろ子
PHOTOGRAPHER
奥山晴日
WRITER
原田美帆